なぜ僕たちはラジオ大阪の中に入ったのか
ラジオ大阪の82期決算がネットの記事になって、Xでもたくさんの方からご心配の声をいただきました。せっかくの機会なので、僕たちがどういう思いでラジオ大阪の現場に関わっているのか、一度自分の言葉できちんと書いておこうと思います。
僕は長いあいだ、カンボジアで事業をやっていました。その話はまた別の機会にゆっくり書くつもりですが、挑戦は思っていたような結果には繋がらず、2023年に日本へ帰ってきました。
そのとき何かと気にかけてくれたのが、カンボジア時代から僕の会社を一番応援してくれていた一人、加藤順彦さんでした。帰国してからは、加藤さんの家業である丸一興産の仕事を手伝ったり、加藤さんが出資している会社の経営を任されたりしていました。
その加藤さんが、あるご縁から2025年にラジオ大阪へ出資することになります。そして、僕のこれまでの泥臭い悪戦苦闘をよく知っているからこそ、「ラジオ大阪を一緒にやってくれないか」と声をかけてくれました。それが、僕がラジオ大阪の中に入ったいきさつです。
僕も加藤さんも大阪生まれで、子どもの頃から当たり前のようにラジオ大阪を聴いて育ちました。
いまの時代、世の中に流れる情報のほとんどは東京で作られて、東京から地方へと一方通行で流れてきます。そのなかで、大阪の言葉で、大阪のいまを、大阪の日常として毎日届け続けている放送局は、何があっても残していかなきゃいけない。僕たちがこの仕事を引き受けた一番の理由は、そこにあります。
単に出資という形でお金を出すだけではなく、一緒にラジオ大阪を良い会社にしていく。その覚悟を、加藤さんは目に見える形でも示しました。
2025年に新しく株主の一員となった丸一興産は、加藤さんのおじいさんにあたる加藤源太郎さんが、1945年に机ひとつから始めた鉄の商いの会社です。それから4代にわたって受け継がれて、80年近く大阪で商売を続けてきました。その大切な家業の名前を、加藤さんは今年5月、「大阪放送株式会社」に改めました。大阪放送は、ラジオ大阪のかつての社名です。
https://osakahoso.com/
80年続いてきた家業の看板を下ろしてまで、放送局の名前を背負う。それは、ラジオ大阪と文字通り一蓮托生で、本気で一緒に前へ進むという意思表示でした。僕たちがこの仕事に向き合う覚悟も、この社名に込めたものとまったく同じです。
もちろん、会社である以上、きちんと利益を出すことは絶対の条件です。ただ、ラジオ大阪を短期間で大きく儲かる会社にして、規模をふくらませて、どこかのファンドに売り抜ける……みたいなことは、実は1ミリも考えていません。
僕たちが守りたいのは、70年近く大阪のいまを伝え続けてきた「放送局」という存在の価値そのものです。それを次の世代にちゃんと手渡していくことに、僕たちはこの仕事をする意味を見出しています。
今回話題になった債務超過は、もちろん早急に解消しなければいけない深刻な数字です。ただ、会社を立て直すといっても、結局はたくさんの人に愛されて、愛されるからこそお金を出してくれるリスナーやスポンサーがいて、ちゃんと稼いで社員に給料を払える状態に戻すしかない。そこへ確実に持っていくことこそが、いま僕たちの何よりの仕事だと思っています。
そのために、いま社内では色んなことが動いています。
加藤さんが会長になってから、ラジオ大阪に加わったのは僕だけじゃありません。『読みたいことを、書けばいい。』の著者で、元電通のコピーライターの田中泰延さんが率いる出版社、「ひろのぶと株式会社」のみなさんにも、クリエイティブ室として社内に入ってもらいました。「本を書いて食べていける世の中にしたい」と出版社を立ち上げた人たちです。いまは彼らと一緒に、ラジオ大阪というブランドを根っこから見直しています。
https://hironobu.co/
僕自身は、経営管理と放送技術の部門を預かる立場として、会社に入って真っ先に経理の効率化に取り組みました。会社を立て直すにも、未来に投資するにも、判断の土台になるのは「経営に使える形で見える数字」だからです。正確な数字自体はちゃんと社内にあった。けれど、それが誰にでもわかりやすい形で可視化されていなかったし、何よりその数字をまとめるために各社員が紙の伝票や承認印の手間に追われてしまっていた。だから、ベテランの頭の中にしかなかった判断ルールを整理して、毎月2,500〜3,000件にのぼる仕訳を、元の領収書や請求書からAIで一気に処理する仕組みに変えました。社員の手間をなくしながら、経営の舵取りに必要な数字をすぐに見えるようにしたかったからです。
技術の現場でも、これまで当たり前だと思われてきた機材の費用を、技術部のみんなと一緒にひとつずつ見直しています。非常用電源のバッテリーを交換するなら、ネジ1本のコストまで落とせないか。同じ安全とクオリティを、もっと安いやり方で出せないか。放送を支えるインフラのコストを、そのくらいの細かさでゼロから考え直しています。
ほかの仕事も全部同じです。現場の一人ひとりの負担を増やさずに、どうすれば同じことがもっと楽に、もっと速くできるか。それを会社全体で徹底して進めています。
そのうえで、正直に書いておきたいことがあります。ぶっちゃけて言えば、ラジオは世間一般では「衰退産業」と考えられています。ラジオ番組の広告枠の売上が、この先右肩上がりに勝手に伸びていくなんて、たぶん日本中のどのラジオ局も思っていないはずです。
だからこそ、僕たちは「電波の枠を売る」ことだけで勝負しようとは考えていません。70年近く放送を続けてきた現場の知恵やノウハウ、そして何より番組を愛してくれる人たちと一緒に、そこから生まれる熱量を、音声に、動画に、文章や本に形を変えて届けていく。ラジオ大阪ではこれを『コンテンツIPスタジオ』と呼んでいます。放送局でありながら、放送の枠の外でもしっかり届く作品や物語を生み出し続ける会社。ラジオ大阪を、そういう場所にしていきたいと思っています。
平日のお昼の生放送は、この10月の番組改編から「DAILYラジオ大阪」というひとつの大きな帯にまとめました。その日に放送した話題は、ラジオ大阪のキャラクター「弁天おび氏」がAIアナウンサーとして約20分にギュッと凝縮して、「DAIRYラジオ大阪ダイジェスト」として毎日届けています。ほかにも、ポッドキャストやYouTube、ラジオ大阪のクリエイターたちが日替わりで書くWebメディア「街角のクリエイティブ」、アナウンサー陣による本気の朗読企画など、電波の外へ届ける試みが少しずつ動き始めています。