細胞分裂後の染色体の形がDNA複製を左右する―秩序だったゲノム3次元構造の再構築がカギ―
研究者情報
研究者名
遊佐 宏介
京都大学 教育研究活動データベース
概要
理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター発生エピジェネティクス研究チームの大字亜沙美研究員(研究当時、現客員研究員)、平谷伊智朗チームディレクター、京都大学医生物学研究所幹細胞遺伝学分野の遊佐宏介教授らの共同研究チームは、細胞分裂後に染色体の秩序だった3次元構造が再構築されることが、その後のDNA複製の開始に重要な役割を果たすことを明らかにしました。
本研究は、DNA複製の適切な制御には、DNA配列上の情報だけでなく、核内における染色体の3次元構造も重要であることを初めて実験的に示し、DNA複製制御の基本原理に新たな概念を提示するものです。
哺乳類のゲノムは、遺伝子の働きが活発な(転写が活性化している)Aコンパートメントと、不活発でより凝縮したBコンパートメントに区画化されており、これらは核内で空間的に分かれて存在しています。ゲノム上のAコンパートメントおよびBコンパートメント(A・Bコンパートメント)領域は、ゲノム上の各領域がいつ複製されるかを示す「複製タイミング」の早い・遅い領域とよく対応しており、DNA複製はAコンパートメント領域から始まり、その後Bコンパートメント領域へと進みます。しかし、この対応関係がDNA複製制御にどのような役割を果たしているのかはよく分かっていませんでした。
今回、共同研究チームは、マウスES細胞を用いて、複製タイミング異常を示す変異体を効率的かつ網羅的に選別できる独自の実験系を構築し、新たなDNA複製タイミング制御因子としてGINS4タンパク質を同定しました。さらに、GINS4を特異的に枯渇させた細胞を解析したところ、GINS4が複製タイミングだけでなく、Bコンパートメント構造の形成にも関わることを見いだしました。また、核内コンパートメント構造が正しく形成されない細胞はDNA複製を開始できないことが分かり、核内コンパートメント構造の構築がDNA複製の制御を支える重要なプロセスであることを実験的に明らかにしました。
本研究は、科学雑誌『Nature Communications』オンライン版(8月10日付:日本時間8月10日)に掲載されました。
画像 G1期からS期への移行時における核内A・Bコンパートメント形成と、DNA複製制御の関係
研究者のコメント
「本プロジェクトの発案から9年が経ち、多くの方々に支えられながら、ようやく本論文をまとめることができました。GINS4を枯渇させた細胞を解析し、これまで見たことのない顕著なBコンパートメント構造の異常を見つけた時の驚きと感動は今も鮮明に覚えています。本研究を通して、新たに知りたい謎も数多く生まれたので、今後も常識にとらわれない視点を大切にしながら、サイエンスを続けていきたいです。」(大字亜沙美)
「ゲノム3次元構造やA・Bコンパートメントの構築プロセスやその役割は、いまだに謎だらけです。ただ、A・Bコンパートメントは複製タイミングと強く相関するので、複製タイミングの制御因子を同定できれば、A・Bコンパートメントの構築原理や意義に迫れるのではないか。そんな素朴な発想からスタートした野心的なプロジェクトでした。満を持して投稿した論文でしたが、査読には実に3年近くを要し、納得することが難しい局面もあり、私のキャリアの中で最も苦しい査読対応でした。しかし、最後まで諦めずに取り組んだことで、オリジナルで質実剛健な研究成果を世に出せたと思います。筆頭著者の大字亜沙美さんのセンスと超人的な努力がなければ、到底成し遂げることのできなかった成果で、『サイエンスは人である』と改めて強く実感した次第です。」(平谷伊智朗)
「これまで様々なタイプのCRISPRスクリーニングに関わってきましたが、今思い返してみても、最も複雑なスクリーニングだったと思います。GFP蛍光強度の変化が2倍以内というレポーター系を使い遺伝子破壊に伴う変化を検出すること、対象が複製という一過的な生命現象であることから、CRISPRスクリーニングがそもそも適用できるのか自信はありませんでした。しかし、筆頭著者の大字さんの丁寧な実験により、ヒット遺伝子が見出せたことは言うまでもありません。GINS4に着目してからの解析結果も毎回驚きの連続で、非常に緻密に計画し実行されていました。このようなプロジェクトに関わることができ、大変光栄に思います。」(遊佐宏介)